Inizo 天使の牙

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蛍光灯に冷たく照らされた、いつものワンルームの部屋。 すえたような匂いの元は、床に置かれた箱だった。 激しく損傷したトランク。 表記されている電話番号は、血に汚れて読めなかった。 海外旅行用ほどの大きさの、黒く塗装されたスチール製のトランクは、所々塗装が剥げ、歪にひしゃげて、ロックも壊れていた。 ボディの側面には、黄色いカラーで 『DANGER』 と、書かれたマークがあり、どす黒く乾いた血の固まりがこびりついていた。 そんなトランクが、カタカタと小さく動いている。 トランクに手をかけ、開けてみると、悲鳴のような軋みと共に中身が露になった。 ―――人間にとって、危険な武器が入っています。 見間違いではなかった。 やはり先程一瞬だけ開けてみた時と、同じものが入っている。 トランクの内側はラバーで覆われ、大量の黄色いスポンジキューブの保護素材で埋められている。 中身は、慎重に保護されていた。 ピンク色の唇、黒く長い睫毛、焦げ茶色の長い髪。 "それ"は、精巧な人形のような……。 両膝を抱えるように丸くなっている"それ"は、ゆっくりと目を開いた。 トランクの中から体を起こしたのは、小柄な少女だった。 スポンジの屑がパラパラとこぼれ落ち、盛り上がった胸が露になった。 彼女は、大きな瞳をこちらに向けて、動きを止めた。 一糸纏わぬ、真っ白な裸体をさらした少女は、じっとこちらを見つめている。 そして、膨らんだ少女の胸に、油性ペンで英文字が書き殴ってあった。 .
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