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雨が降った。
においで分かる。
買い物を終えてスーパーから出ると、
アスファルトが水を吸った独特の匂いが鼻をついた。
嫌いじゃない。
このにおいも、道路の脇の水溜りに車のタイヤが入って水が跳ねる音も。
嫌いじゃない、普段なら。
でも今の僕には、そのどれもが気に食わなかった。
大した事じゃない、友達と少し考えてる事がすれ違っただけだ。
ただ、あいつは二人の考え方の差異には触れようともせずに、話を締めくくった。
『まぁ、人それぞれだよね。』
僕は近々この言葉が嫌いになりそうだ。
確かにこの言葉は正しい。
十人十色と言う言葉がこの世にはあるのだから、人の考えがそれぞれ違うのは事実なんだろう。
でも、あいつの言葉は、それ以外のニュアンスもしっかりと含んでいた。
僕との衝突を拒んでいた。
それは、別に僕が怖い存在だからとか、そう言うのじゃない。
僕と彼の間に生じたわずかな隙間を、覗き込むのが面倒だったんだ。
僕はそこを覗き込んで、隙間の深さや形や、それが出来た理由なんかを彼と指差して話し合って、
最終的には埋まらなくても納得がいけばいいと思っていた。
でもあいつは僕が何か言い出す前に、そこに無理やりコンクリートを流し込んだ。
コンクリートが固まった後は、どう頑張っても、その隙間だった距離を近づける事ができない。
僕はそれが嫌だった。
でも彼はその事に対して何も思わない。
またそれが僕の中にドロドロとした何かを作り出すんだ。
まだアスファルトのにおいがまとわり付く。
雨は降らない。
いっそ土砂降りになって、何も見えなくなってしまえば良いのに。
僕の思いとは裏腹に、真昼の曇り空は、その青みを増した。
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