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結局、その後私達は、病室に戻った。
本当は…、本当…はね。
あの時に、成瀬君が手を掴んでくれて、私の名前を呼んでくれて…、嬉しかった。
倒れて目が覚めたら、いつも、病室で点滴…。
いつも、起きる場所は病室。見る景色、食事も限られていて、好きな服さえ着れない、家族も来ない…。
まるで、あやつり人形。
起きる場所が決まっているなら、病室なら、倒れたくない。
だから…、成瀬君が私の意識を戻してくれて、嬉しかった…。
×××××
夜の消灯時間…
看護士さんが、病室を出ていくと、私達の空間は、静かな夜に変わる。
物音が、一つも聞こえない、夜。
「高橋さん。俺…、高橋さんの歌、好きだよ…。」
ブッ!
何を言うかと思ったら…、意味分かんない…。
『ふざけんな』
聞こえないないように、布団で口を覆って言った。
「あっ、ばれちゃった?」
聞こえちゃったみたい…。
っていうか、ふざけてたんだ…。
本気とは思ってないケド、冗談だとも思えなかった。
本当に…、変な人。
×××××
「起きてくださ~い、朝ですよ。高橋さん」
いつもと同じ朝。
この言葉が、私の目覚まし時計。
目を薄く開くと、入ってくるまぶしい光。
小鳥のさえずり。
いつもと同じ朝なのに、私にとってはどこか、違う朝だった。
「今日の高橋さん、大人しいわねぇ~。いつもなら、乱暴なのに…。」
“ピクッ”
耳が、自然に動いた。また、この声…。
外…行こう。
“シャー”
布団から出て、サンダルを履こうとしたら、突然、カーテンが開いた。
「菓子、いる?」
カーテンを開いたのは、成瀬君…。
『いらない。』
小さな声で、言った。この直球な言葉に、少しグサッときたようで、成瀬君は自分のベッドに腰掛け、私も自分のベッドに腰掛けた。
「あっそ…。で、体は大丈夫なの?声…、あまり、喋っちゃいけないんじゃない?」
そんなの、私の自由。ていうか、あなたが喋らせるんじゃない。
「高橋…。」
声のトーンが下がり、急に、真剣な声で名前を呼んだから、少しびっくり。
「おまえ、もっと笑えよ。」
真顔の顔の頬を、人差し指で押し上げて、笑顔を作る成瀬君。
『別に…、私の勝手でしょ。』
「だって、おまえの顔、いつも怖いもん。まぁ、俺が素直に、お前の笑顔見てみたいだけなんだけど。」
笑顔で答えた、成瀬君。
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