『隣』

4/6
前へ
/6ページ
次へ
結局、その後私達は、病室に戻った。 本当は…、本当…はね。 あの時に、成瀬君が手を掴んでくれて、私の名前を呼んでくれて…、嬉しかった。 倒れて目が覚めたら、いつも、病室で点滴…。 いつも、起きる場所は病室。見る景色、食事も限られていて、好きな服さえ着れない、家族も来ない…。 まるで、あやつり人形。 起きる場所が決まっているなら、病室なら、倒れたくない。 だから…、成瀬君が私の意識を戻してくれて、嬉しかった…。 ××××× 夜の消灯時間… 看護士さんが、病室を出ていくと、私達の空間は、静かな夜に変わる。 物音が、一つも聞こえない、夜。 「高橋さん。俺…、高橋さんの歌、好きだよ…。」 ブッ! 何を言うかと思ったら…、意味分かんない…。 『ふざけんな』 聞こえないないように、布団で口を覆って言った。 「あっ、ばれちゃった?」 聞こえちゃったみたい…。 っていうか、ふざけてたんだ…。 本気とは思ってないケド、冗談だとも思えなかった。 本当に…、変な人。 ××××× 「起きてくださ~い、朝ですよ。高橋さん」 いつもと同じ朝。 この言葉が、私の目覚まし時計。 目を薄く開くと、入ってくるまぶしい光。 小鳥のさえずり。 いつもと同じ朝なのに、私にとってはどこか、違う朝だった。 「今日の高橋さん、大人しいわねぇ~。いつもなら、乱暴なのに…。」 “ピクッ” 耳が、自然に動いた。また、この声…。 外…行こう。 “シャー” 布団から出て、サンダルを履こうとしたら、突然、カーテンが開いた。 「菓子、いる?」 カーテンを開いたのは、成瀬君…。 『いらない。』 小さな声で、言った。この直球な言葉に、少しグサッときたようで、成瀬君は自分のベッドに腰掛け、私も自分のベッドに腰掛けた。 「あっそ…。で、体は大丈夫なの?声…、あまり、喋っちゃいけないんじゃない?」 そんなの、私の自由。ていうか、あなたが喋らせるんじゃない。 「高橋…。」 声のトーンが下がり、急に、真剣な声で名前を呼んだから、少しびっくり。 「おまえ、もっと笑えよ。」 真顔の顔の頬を、人差し指で押し上げて、笑顔を作る成瀬君。 『別に…、私の勝手でしょ。』 「だって、おまえの顔、いつも怖いもん。まぁ、俺が素直に、お前の笑顔見てみたいだけなんだけど。」 笑顔で答えた、成瀬君。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加