『隣』

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『笑わない。笑うこと…、好きじゃないから。』 「何で?」 怒鳴られることを承知で聞いてみた。 『見ての通り、分からない?私の親、ほとんどお見舞いに来ないでしょ。小さい頃もあんな感じ。笑えなくなっちゃったのよ。』 成瀬君は、私の話を静かに聞いている。 「ゴメン、嫌なこと聞いて」 いつもの高橋見てると、怒鳴られるかと思った。 なんか…、素直。 初めて、高橋の弱い心に触れた。 『何言ってんの?本気にしないで、適当に言っただけ。私だって、無理矢理なら笑える。でも、馬鹿みたいじゃない。この先…、死ぬかもしれない。なのに、笑えって…?身の程知らずの馬鹿よ。』 傷つけばいい。 傷付いて、あなたも私を嫌えばいい。 私が、サンダルを履き成瀬君の前を通ろうしたその時。 「お前って、可哀想な奴。」 『なっ―!』 頭にきて、成瀬君の方に体を向ける。 「だってそうだろ?死ぬことしか考えられないなんて、可哀そ。身の程知らずの馬鹿はお前の方だよ。」 『なによ?死ぬかもしれないのは事実でしょ。それに、私は可哀想でもいいわよ。どうせ元々、可哀想な子なんだから。』 「お前が、そう言うからだろ?死ぬかもしれない?それがなんだよ。そんなこと思ったって、どうにもなんねぇじゃん。だから笑ってるんだろ」 『偉そうに。』 「笑えば、幸せになる。」 『なにを言ってるの?バカらしい。』 「とにかく笑ってみろ!」 『嫌だ』 「笑え」 『嫌。』 「あ゛~、グタグタうっさいなぁ!俺が、お前を笑わせてやる。」 『何それ?意味わかんない。』 「ヘッ!これなら文句ねぇだろ?」 自慢気に、人差し指を立てて言う成瀬君。 この人とは一生、分かり合えない。まぁ、分かり合いたくもないけど…。 『勝手にすれば。』 そう言って病室から出る。 「はぁ……」 あの人と居ると、本当に疲れる。 っていうかあの人、本当に病人なの? うるさすぎるくらい元気なのに…。
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