鬱-ウツ-

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下の家にはお義父さんの母、 おばぁちゃんも一緒にすんでいた。 年寄りといっても 目にはまだ眼力というか、 結構なんでも見えているような人だった。 やはり嫁と姑は永遠の ライバルであり、お義母さんはいつもおばぁちゃんの悪口をいっては、小馬鹿にしていた。 まぁね、年寄りだから… とはいっても あの二人はそりが合わなようだった。 温泉やマッサージ、お寺参りが大好き(?)な人で、よく葉書とかで案内があるとソソソ…と出掛けていた。 ある日また何通かおばぁちゃん宛ての手紙がきており、 『こりゃあね、あんたのだよ、はい。』 と渡された。 宛名はおばぁちゃんのもの。 『え?みていいんですか?』 見ると、 『定例水子供養の案内』とあった。 『あんたの流れた子だって供養しなきゃ浮かばれずに、次に生まれ変わることすらできなくなるんだとさ。若いもんはなんも気にせんが、こういうのはね、ちゃんとしとかなんよ。』 きちんと、二人分。 『これ、ずっとしてくれてたんですか?』 『うんにゃだ。一回はしてある。ちゃんと供養してもろて、あちらでの名前まで貰ってある。あとは自分らで参りにいくといい。』 嬉しかった。 あの時の、 この世に産まれてこれなかった子らの事を忘れず、 お義母さんやお義父さんのように見てみぬフリをしない人が、この家にいてくれたことが。 『明日いってきます!』 お義母さんにそのことを話すと、 『ばぁさんの付き合いか知らないけど、最初だけ参っといて、あとはあんた達でしなさいっていうところが、投遣りすぎるのよ!勝手にしたんだから、最後まで自分ですればいいのに。』 といっていたが、 まず私達だけでは その入り口までもが遠い世界であり、 入り口をつくってくれたことだけでも、 私はうれしいのだった。
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