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くたびれて家に帰ってきた。
貴女がいたら、笑顔で出迎えてくれるのだろう。
いかん。
また妄想が始まってしまうところだった。
あ。
会社帰りに買ってこようと思っていた野菜ジュースを忘れてしまった。
仕方ない、明日は我慢しよう。
スーツをきちんとハンガーに掛けた。
すると、携帯が震えた。
何事か、と思い携帯を開くと、貴女からだった。
ディスプレイには『真奈美』。
「もしもし」
平常を装ったつもりだったが、声が上擦ってしまった。
『祐貴?久しぶりだね、話せるの』
貴女も嬉しそうな声をしていた。
「真奈美……」
貴女と話せたことが嬉しくて、熱いものがこみ上げてきた。
『祐貴…?泣いてる?』
「ヒッ…泣いてねぇし」
僕は強がってみたけれど、全く説得力は無かった。
『やだっ…泣くなんて、』
「……逢いたい……」
『えっ!?…今から…?』
「…ごめん。無理だよな…」
『…大丈夫だよ…?』
「えっ」
『だって……今、祐貴の家の前にいるんだもん』
「うそっ」
ヤバい。
僕は足元にあった卑猥な表紙の雑誌をベッドの下に滑り込ませた。
これで済ませていたなんてバレたら怒られそうだ。
ピンポーン――…。
インターホンがなった。
僕は慌てて玄関に走った。
鍵を開け、ドアも開ける。
「真奈美……」
ピンクのヒラヒラなワンピース。
明らかに仕事モードではない。
「祐貴…逢いたかった」
貴女は僕の胸に抱きついてきた。
玄関のドアがバタンとしまった。
僕は手を震わせながら貴女の背中に腕を回した。
「……ありがと」
小さな声で貴女は呟いた。
「……こちらこそ…ありがとう……」
僕は照れくさかった。
おそらく赤くなっているだろうという自らの顔を見られまい、と貴女をさらに強く抱き締めた。
「……痛いよぅ…」
貴女は泣きながら笑っていた。
「ごめん!そんなに痛かった?」
強く抱き締めた事が泣いた原因だと思った僕は腕の力をとっさに緩めた。
「違うよ……嬉しくて……祐貴に抱き締めてもらうのが……」
ヤバい。
色々とヤバい。
泣き顔、ツボだ。
「…祐貴…もしかして…」
僕は真奈美をお姫様抱っこして、シングルベッドへと運んだ。
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