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私は不意に目を開けた。目を開けた、という動作はつまり目を閉じていたということだ。 机に伏していた私はまず目線の先にある窓の夕日が見に映った。それは夕日にしてはやけに眩しく、しかしどこか優しい茜色が広がっていた。 「ああ、かなり寝たな」 なんてどこか適当な感想を漠然と抱いて、それがどこかもどかしくて少し顔を赤くした。 瞬間私は赤くした顔を更に赤くした。つまり真っ赤にした。 最初は寝ぼけていたから分からなかったが私の先、つまり窓の手前の席。 詰まるところ最初に理科室に入ってくる時に見たフラスコやメスシリンダーが置いてある机にその人物がいた。 全体的に耳が隠れるくらいの長さの髪がやけにボサボサしていて、四角い黒縁眼鏡の先には子供のような好奇心を失っていない瞳が光っていた。 彼はフラスコの液体とメスシリンダーの液体を少しずつ混ぜ合わせながらかき混ぜていく。 そんな単純作業を、しかしつまらなさそうな様子は少しも見せず好奇心に満ちた瞳を更に一層輝かせていた。 私はどうしたらいいか分からず、その場に固まってしまった。沈黙を破ったのはその人だった。 「入部希望の人だよね、部員が増えたのは僕以来初めてだなあ」 そう言いながらも彼は手を休めることなく白い粉をそのフラスコへまた混ぜていった。 私は人との関わりを避けているがそれはつまり他人とのコミュニケーション能力が著しく欠けているということだ。 私は彼のそんな言葉に対して何も言うことが出来なかった。心の中では考えていることがポンポン出てくるのに、実際に口に出すのは極僅かだ。
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