3

3/5
前へ
/14ページ
次へ
私は机に伏したまま小さくうずくまると、あることに気付いた。 寝る前に見たあの先生が着ているのと同じ種類の白衣が、私の背中に大きく覆い被さるようにかけてあった。 しかし不思議なことになぜかその白衣からはあの先生を感じさせず、暖かい気持ちになった。 と、私はそんな間抜けな考えをしていた所為だろうか。あの人が私の前まで来ていることに対して全然気付かなかった。 たじろぐ私、彼は私が持ってきた入部届をじっと無言で見つめていた。 いや、無言といっても少し口を開けていたか。 私はもうそう組み込まれているかのように、俯きながら顔を赤くした。 「……綺麗な字」 恐らく独り言だろう。だがそんな独り言に対してすら私は恥ずかしくなって、同時になんだか誉められているような気がして少し嬉しくなった。 「津野、芽衣子……」 私は心臓が爆発しそうだった。 これも彼の独り言で、私に対して向けた言葉ではないだろう。 それでも、他人にフルネームで呼ばれるのは久方振りなので、なんだか凄く緊張してしまった。 もう心臓の音が聞こえるんじゃないかってくらい、私の鼓動は加減することなく早くなっていった。 少し顔を上げる私。彼と目があった。 と、突然彼は入部届を机に置いた。 「ご、ごめん、覗くつもりはなかったんだ!」 一時の沈黙。訪れる静寂。だが、ただの一時だ。 彼は何かを察し、また口を開いた。 「……えーっとさ、吉岡さん、なんか言ってた?」 え?私は疑問符しか思い浮かばない。謎だらけだ。 「……吉岡さんって?」 「あぁ、ごめん。吉岡さんはこの部活の顧問。もしかしてまだ来てなかった?」 よく誤る人だ、と、私はそう漠然と感じた。 「いえ、来ました。そろそろあいつが来るって――」 「やっぱり!」 彼はそう言って下唇を噛んだ。しかしその表情には悪意などなく、むしろ友達同士の関係を連想させた。 「だからこの部活は僕がいないとダメなんだよなー」 言いながら彼はさっき机に置いた入部届を無造作に手に取った。 「津野芽衣子さん」 これは明らかに私に対する言葉だろう。私は小さく返事をした。 「はい……」 「入部希望なんだよね」 「……はい」 「最初に言っとくけどこの部活は、基本何も活動をしない。来てもいいし来なくてもいい。あなたが本格的に科学の勉強をしたいのなら正直籍を置かない方がいい。それでもいいのなら僕は大いにあなたを歓迎するよ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加