Ⅰ始まりの祝詞

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 あの公園は一体なんだ、と    行ったことがないのではなく、フィンセントの全ての記憶の中に存在していなかったのだ。  フィンセントは外に出ない分、地図だけははよく記憶していた。最新版も目にしたが昔と変わらなかったのを覚えている。この場所は荒れ地のはずだが、荒れ地にしては整備が行き届きすぎていた。    はしゃぐ子供達と共に道路を渡り、公園敷地内に入るとその疑問は更に深まった。    ありとあらゆる植物がそこにはあり、鮮やかな緑を天にさらしていた。秋だが紅葉しているものは少ない。そういう種類のものばかり集めたにしても、美しいまでに青々しい。  薄桃色と白、それに濃い赤紫のコスモスの絨毯が風情を引き立てる。他に咲く花々もコスモスに負けてはいない。    最早、公園だけでは表現できない。貴族の庭園かと見違うほどの優雅さだった。新しいものにしては木々が大地に付きすぎている。    有り得ない。    そんな思考が過ぎったとき   「あ、アンセルムさんだ!」  子供の一人がフィンセントの側を離れた。 「ホントだ!」 「アンセルムさん~~~!」  次々に子供達がフィンセントから離れて行く。  フィンセントは子供達を見つめた。   「!?」    そこには有り得ない光景が広がっていた。    子供達を引き連れてやって来たのは初老の男。浅い皺が60前後を物語る。  だが深い何かが彼から感じられた。まるで1000年も生きた仙人のような、世界の始めから終わりまでを知る様な、そんな神々しさ。    フィンセントが驚愕したのはそこではない。    有り得ない人種だったのだ。   ―――――黒人。    魔術師と同じく、この街には住むことも居ることも出来ないはずの黒人だった。  
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