貪り舐めるが如く

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 殺戮と破壊の化身は手首から噴出する闇を振り回す。    正気だとは思えない瞳が深い闇の中で煌めき鮮血の月と呼応する。時に激しく、美しく。    湧き上がる絶叫と悲鳴、肉体が爆ぜる音、命散り逝く音が心地よいのか、そいつは更に腕を振った。その度に犠牲者は重なるように増えてゆく。    神父服を着る殺戮者の右顔が闇に紛れる様に黒く変色。金髪だった長い髪が漆黒の触手となり不規則に、又一つの生物のようにうねりだした。    化物  恐れるしかなかった     『クトゥルフ フタグン』      それの口から気味の悪い、人間の発音ではない、何かが呪詛のように紡がれた。    呪詛は続く。何かを讃える究極に呪われた呪詛を。血の海に次々と人を落としていきながら!     『ナイアルラトホテップ ツガー シャメッシュ シャメッシュ』    呪詛と共に快楽の笑いが不協和音となって広がる。 『ナイアルラトホテップ ツガー クトゥルフ フタグン!!』      何かが全てを嘲笑い悪魔が謳う。    そこにあるのは終りの他に何もない。絶望のどん底。    恐怖の嵐が襲いかかろうとした、刹那   轟音!!   「!?」   男の顔が驚愕に歪む。      腹部には巨大な風穴が口をあけて内蔵を空気に晒す。桃色の太い紐のような所々くびれたそれは腸の一部だろう、ズルリと落ちて血みどろの中に消えてゆく。    倒れながらも弾丸が放たれたであろう方向を男は見た。 その瞬間、事態を把握出来ない瞳が絶望の色で染めあがる。   「――――」    声にならなかったが何かを呟き    男は鮮血と闇の中に倒れて、蝋人形の様に動かなくなった。      冷たい雨が男の体に叩きつけられ、鮮血の大地が洗い流されて静寂が覆いかぶさった。
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