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だが彼の元々持つ邪悪な何かが、それらをかき消していた。
だがそれでも街の者は美しいと思っていることだろう。
邪悪さがなければ神の化身と言われてもおかしくない。
だからこそ人々はフィンセントを悪魔と呼んだ。
神の使者にその身を似せる悪魔、だと。
――――ごく一部を除いて。
「フィン兄ちゃん!」
呼ばれた幼い声にフィンセントは踵を返した。
迷路のような細い路地から出てきたのは3・4人の子供で女の子もいる。洋服が同じ事から孤児院の子と言うことを物語っていた。
走りながらも子供達の幸せな笑い声は絶えず見る者を幸せな気分にさせる。
勿論、彼も例外でなく鋭い雰囲気は柔らかく綻びた。
「なんだい?」
囁くような美しい声を発してフィンセントは子供達の目の前に近寄りしゃがんだ。子供と同じ高さの視線となり目を合わせる。
「見て、どんぐり!」
花が開花するように広げられた手にはどんぐりの実が敷き詰められていた。虫食いのものもあり、穴の開いたどんぐりもあったが子供達にとっては大収穫なのだろう。
「こんなに沢山…どこで?」
「向こうの公園でたくさん落ちてたんだ」
一瞬考えた。瞬時に出した結論は行ったことがないと言うことだけだった。
フィンセントは外に出るとしても教会の敷地内に程度。悪魔と呼ばれているのもあるが、外に出る必要が無かった故に外出はしない。
外出は仕事の時か、時々子供がフィンセントを遊びに連れ出す時ぐらいだろう。
「フィンも来て一緒に遊ぼう!」
そして子供たちは今日も彼を誘う。
「え…あ、ああ……」
動揺した。
取り敢えず今日は早く帰れると思っていたが、子供達の頼みは何故か断る気になれない。
甘さ、かもしれない。
いや、子供が人類の中で一番好きなだから、断れないだけかもしれない。
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