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風が冷たく朽ちたビルの谷間を通りすぎていく。
リピはレンズ越しに、アグノスの可憐な姿を見詰める。
闇の中でも、僅かに残った街灯の光で浮かび上がる白い肌。
星のように、自ら輝いているのではないかとさえ思える金髪。
長い年月を地中で眠っていた碧玉をはめ込んだような、青い瞳。
細身ながらも、女らしさをしっかりと強調する魅力的な体付き。
その身を包むのは、絹仕立ての純白のワンピース。
大国の軍隊を次々と滅ぼしたとは思えない程に、アグノスは可憐だった。しかし彼女は確かに、その右手で引きずる大剣で殺戮を繰り返し、兵器の全てを破壊し、人の希望と願いを踏み躙ったのだ。
リピはレンズの中央に刻まれた十字を、慎重にアグノスの頭に合わせる。高性能の望遠レンズは、彼女の薄く柔らかそうな赤い唇までも鮮明にリピに見せる。
アグノスはゆっくりとした歩みで、レンズの視界から外れていく。
リピのレンズは、そんなアグノスの動きを追いかけ、そして少し追い越す。そのズレは十二・六メートル。
不意に、アグノスがその歩みを止めた。レンズの十字もまた止まり、アグノスが左耳から、レンズを上方にコンマ三桁二度、南南西にコンマ二桁五度ずれる。
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