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アグノスが、リピの方を向いた。二千メートルの距離など存在しないかのように、まっすぐ無感情に街灯の光を宿す瞳が、リピを射抜く。
リピは、引き金を引いた。
スナイパーライフルの銃弾は、北北東からの風にさらされ、重力に引かれる。それは確実に、街灯のオレンジを宿し、色を暗くしたアグノスの瞳に吸い込まれていく。
アグノスの碧玉を貫き、赤が爆ぜるまでは、引き金を引いてから二秒と少ししか掛からない。
螺旋を描く銃弾。
それを見詰める瞳。
アグノスははっきりと自分に迫る脅威を認識しながら、それでも無表情を保っていた。
アグノスの白い右手が、大剣を握り直した。
左手が大剣の柄尻を掴む。
大剣は後ろに少し引かれ、そして振り抜かれる。
右下から左上へと跳ね上がる潰れた刃。
真鍮の鎧を纏ったフルメタルジャケット弾は、その剣圧だけで鎧を剥がされた。
露わになった、本当の銃弾。
しかしそれは、何千の兵器を斬り裂き、潰れ切った刃にぶつかる。
針のように鋭く尖った先端は、鋼鉄製でありながら削れて丸まっていき、遂には弾かれる。
アグノスは、白いワンピースから伸びる足を折り、その身を沈める。
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