プロローグ

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また違和感を感じた。 広場とここに来るのに通った道に人が全然いない。 ドイツ軍が近づいているから、パリを出ていく人はここ数日で増えていたが、それでも小道に人は少なくなかった。 小道でも人がいるということはコンコルド広場やエトワール広場、シャンゼリゼ通りなら尚更だ。 何か大きな出来事が起きたのかと思って店に帰ってラジオでニュースを聞いた。 そこで初めてフランスが降伏したことを知った。 そしてエトワール凱旋門でドイツ軍がパレードを行うことを知り、凱旋門のあるエトワール広場とコンコルド広場を結ぶシャンゼリゼ通りに近い建物からそれを見た。 鉄兜をかぶったドイツ兵が行進している。 街路樹のマロニエで表情までは見えなかったが、勝者の自信に満ち溢れていることは感じられた。 それを一緒に見ていた友人は肩を震わせて静かに泣いている。 しかし俺は何も感じない。 日々の生活に追われて愛国心を持つようなゆとりはなかったのかもしれない。
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