テレビの消えた日

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『テレビの消えた日』・・・・・・ あの日以来、僕達の生活から伝達手段の殆どが奪われた。 今、この国では「テレビ」「ラジオ」「(携帯)電話」「ネットワーク」の使用が不可能になっている。原因は不明だ。この現象は少しずつ世界に広がっているらしい。  それによって、現在ちょっとした読書ブームが到来している。本好きとしては嬉しい限りだった。やることが全くない日は図書館に行くことが多くなった。  そんなある日、僕は人の多さに嫌気が差して、人の少ない専門書や入門書のコーナーへと逃亡を決意した。そこ行けば広大な領土と書物が有るのだと想像して向かった。しかし、そこは既に占領下にあった。  一人の女の子が、たくさんの本を床に広げていたのだ。  その光景に僕は声を掛けずにいられなかった。何をしているのか、その問いに対する彼女の返答はなおさら僕を混乱させるのだった。 「わたしたちは、こみゅにけーしょんをうしなった」 「え?」 「ひとはなれる。つながりをうしなったことになれる」  よく見ると彼女が広げていたのはコミュニケーションに関する本ばかりだった。 「だめだ、そんなのだめだ。みうしなうまえにとりもどさないと」  呆然とする僕のことを、声を掛けてから初めて彼女は見た。少し警戒の抜けていない瞳で、僕をじっと見つめていた。しばらくして、彼女はうんうんと頷く。 「わたしたちは、わすれかけていたしゅだんに、めをむけなければならないっ」  そういって彼女は僕に手を差し出した。真っ直ぐに視線を重ねたのは、今のところこの時の一回だけかもしれない。 「てつだえ」  さらに突き出される彼女の手。僕はおずおずとその手を取った。久しくすることのなかった握手・・・これが彼女との出会い。 僕と彼女のコミュニケーション再生計画の始まりだった。
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