テレビの消えた日

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 と、やや他の人より壮大な出会い方をしたわけだが、これと言って再生計画に進展はなく、午後からのピクニックの弁当の材料などを買いに出ている今現在。  何だかんだ現状が気に入ってる俺がいて、楽しそうに髪を揺らしながら前を歩く彼女がいる。時々ちらりと後ろの僕を確認する彼女の動作に妙な繋がりを感じて嬉しく思う。未だに彼女の言う「つながり」には程遠いかもしれないが、こんな繋がりもなかなか良いのではないだろうか。  ゆっくりと歩く僕をちら見する回数が段々増えていき、痺れを切らしたようにこちらに駆け寄ってくる。いきなり、わしっ、と手を握られる。 「はやく。おべんとがにげる」  少しのんびり歩き過ぎただろうか。  手から伝わる温もりに、僕の想定より少しだけ強い「つながり」を感じながら、 「弁当は俺が作るんだから逃げねえよ・・・」 僕と彼女は少し早足に歩いてゆく。  途中見つけたポストに、再生計画の足掛かりを投入した。 『テレビの消えた日』・・・  彼女曰く、あの日を境に僕らは多くの「つながり」を見失った。  だけど、僕は少しだけ嬉しく思う。そのおかげで、彼女との「つながり」を得たことを。  日がな一日寝ていて、たまにボーっと壁を眺めていて、日向ぼっこが好きで、公園でテンションが上がる猫みたいな女の子。  ロシアンブルーのような艶のある黒髪を観察していると、こちらの様子を伺った彼女と目が合った。ぷいっと、そっぽを向かれる。やっぱりまだ心を完全には開いてくれてないのかもしれない。  さて、今日の弁当は何にしようか。これで彼女とのコミュニケーションを取ることにしよう。とりあえず彼女の好きな卵焼きに、彼女の嫌いな人参を混ぜようと思う。  僕の足音にぱこぱこと、ぶかぶかの靴が出す音が重なる。  あれ、そういえば猫って大切なものとはあまり目を合わせないんだったっけな?
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