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若槻慎二は、青鉛筆を持った手をしばし休めて、小さく伸びをした。 ブラインドを上げているので、総務室の東側にある窓から差し込んだ陽光が、机の上に小さな日だまりを作っている。 ペン皿に載っているボールペンやスタンプ印、書類の幻影を確認するための拡大鏡やディバイダーなどの上で、細かい光の粒子がきらきらと輝いていた。窓の外に目をやると、京都の空は抜けるように青く、ところどころに絵筆でぼかしたような雲がたなびいている。 爽やかな朝の空気を肺に吸い込んでから、彼は再び、デスクの上に山積みになっている死亡保険金の請求書類のチェックに戻った。
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