1996年4月8日

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荒木の隣には、白髪で眼鏡をかけた中小企業の社長風の男が座っていた。 入社二年目の田村真矢が、保険証券を指さしながら何事か説明している。 前に出ている書類は契約者貸付の書類のようだった。 男の持参した印鑑とは印影が違うと言っているらしい。 男は説明もどこか上の空の感じで、荒木の様子を見ていた。 やがて保険証券をセカンドバッグにしまうと、そそくさと立ち上がって出ていった。 若槻は、男の行動に漠然とした違和感を抱いた。 「なめとったら、あかんぞ!わしを、誰や、思っとるんや?」 また荒木がわめいた。 応対していたのは入社したばかりの川端智子のようだ。なぜ自分が怒鳴られたのかもわからずに、ただおろおろしている。 保全の担当者は、同時に窓口の責任者でもある。  したがって、何かトラブルが起きた際には、若槻か葛西のいずれかが対応しなくてはならない。 若槻は立ち上がりかけて、一瞬躊躇した。
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