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また、あんな男の相手をしなければならないのかという思いがよぎったからだった。
葛西が立ち上がり、中腰のままの若槻の肩をポンと叩くと、足早にカウンターへと歩いて行った。
「たいへん申し訳ごさいません。 何か、失礼がありましたか?」
あいかわらずの陽気な声である。
こちらを向いて、こっそり川端智子を目顔で慰めると、席に戻した。
荒木は椅子にふんぞり返って、汚い脛を出してサンダル履きの足を組み、変声期前の子供のような声で、女子職員の教育がなっていないなどと文句を言い始める。 葛西の方は決して逆らおうとせず、適当に合いの手を入れながら話を聞いている。
若槻は、ノロノロと腰を下ろした。自分が躊躇したのを葛西に見透かされてしまったようで、恥ずかしかった。
その時、電話が鳴った。
坂上弘美が受話器を取る。
しばらく低い声で、はい、はい、と言っているのが聞こえたが、保留のボタンを押すと、まっすぐ若槻の方へとやって来た。
坂上弘美の顔を見て、若槻は嫌な予感を覚えた。
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