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普段はほとんど表情を動かさない彼女の目元に、かすかな緊張が漂っている。
そもそも電話を回すだけならインターホンでかまわないのに、わざわざ立ってやって来るというのは、ただ事ではない。
「若槻主任。お客様からのお問い合わせなんですが…」
「なんか難しいこと?」
坂上弘美は五年間の窓口経験があり、保険に関する知識は若槻より多いくらいである。
たいがいの質問には自分で答えられるはずだった。
「それが、自殺した場合、保険金は出るのかと、おっしゃってるんですが…」
その手の電話は、生命保険会社にはよくかかってくる。 だが、坂上弘美の顔つきから判断すると、彼女は単なるいたずら電話とは思っていないらしい。
「……分かった。僕が話すよ」
若槻がうなずくと、坂上弘美は、ホッとした表情を見せて自分の席に戻っていった。
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