1996年4月8日

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若槻は、机の引き出しから社外秘である自社の保険契約の解説書を取り出した。もちろん質問自体はごく初歩的なもので、生命保険会社に在籍する者なら、誰でも即答できる。 だが、答え方には、慎重さを要した。 「もしもし。たいへん、お待たせいたしました。窓口担当の主任をしております若槻と申します」  かすかな咳払いのような声が聞こえたが、相手は、何も言わなかった。女性のようだ。 「お問い合わせの件なんですが、どういったことでございましょうか?」 「さっきも、言うたんやけど」 聞き取りにくい押し殺したようなしゃがれ声だった。 かなり緊張しているような感じだった。 「保険金いうのは、自殺した時でも出ますんか?」 「早急にお調べいたしますが、あの……どなたかが、お亡くなりになられたんでしょうか?」 相手は無言だった。 再び咳払いの声。
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