仕事は溜めるもんじゃない

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――龍夜side―― ユサユサと身体を軽く揺さ振られる感覚がして、目が覚めた。 「あ、起きたね」 狼騎が俺の顔を見て言う。 その表情は、やはり影になっているし、よく見たらサングラスもしていた。 それでも彼女だと分かるのは、俺にとって彼女が特別だから。 「リュウ、どうかしたの?」 何も言わなかった俺を心配してか、声をかけてくる。 俺は身体を起こすと、彼女に抱き着いた。 「消えて、ねぇな」 「リュウ・・・。安心して、オレはいつでも傍にいるよ」 「ワリィ・・・でも」 「過ぎた事は気にしないで。オレは生きてるよ」 そうじゃなきゃ、此処にいないしね。 そう付け足すように言うと、子供をあやすように背中を軽く叩かれた。 「ガキ扱いすんな」 「そう?さっきのリュウは、不安がってる子供みたいだったよ?」 俺がムスッとした顔になったのを見て、また彼女が笑う。 暫く心地好い沈黙が流れた。 「リュウ」 彼女が呼び掛けてきた。 「今日はここまで。また今度ね」 そう言って立ち去る彼女の背を見ながら、ああ、と答える。 できれば行かせたくない。 俺の近くにずっと置いておきたい。 また、いなくならないように。 お前から全てを奪って、俺だけのものにしてしまいたい。 自分でも分かるくらい歪んだ心を自嘲する。 (きっと、彼女の1番は俺だから) 何となくだが、そう思う。 そのあと暫くして、ベンチから立ち上がると、自室に戻ってまた寝た。 今度は深い眠りにつけた。
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