第一話「始点への手綱」

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ザシュッ 一匹の狼が、鋭い切断音がした途端に動きを止め、地面に倒れる。 仕留めた事を確認するとその人物は脱力し、安心と達成感を含んだ吐息を洩らす。 「ふぅ…、これで終わりだな」 今は夜中、辺りは並び立つ木々により月明かりが遮られ、一層暗く不気味な闇が広がっている。 さらに風が草を揺らす音以外は何もかもが沈黙を決めており、より一層人間の本能に恐怖を植え付ける。 その中一人、青年が不規則に赤く塗れた刀を素早く振り、刀身に付いた血糊(ちのり)を払うと鞘に納める。 この鬱窟とした雰囲気を漂わせる森は『死の森』と呼ばれ人々に避けられる場所である。 よく人を襲う獰猛な獣たちが徘徊する故に、人気などは全く無く、辺りは好き放題にのびのびと植物が地面を占領している。
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