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中年は体を捻ってかわし、勢いを殺さず回転し踵(かかと)を脇腹に叩き込むが、またも刀で止められる。
「楽にやらせてくれんかねぇ。おじさん、早く帰りたいんだよ」
そう言いつつ、蹴りの衝撃を利用し距離を取る。
「それはこっちのセリフだ 。つかどうなってんだその足。なんで刃の部分当ててんのに止めれるんだよ。冗談じゃねぇ」
少し苛立ちが孕んだ疑問を青年は投げ掛ける。
力の源足る魔力はある程度の領域に達すると魔力が体から、或いは使用箇所から感じ取ることが、技術があれば可能である。
だが、何も――見る限り――施されていない靴の裏で刃物を止めるなど物理的におかしいことを、目の前の人間は何もせずやってのけていた。
当人は肩をすくめ、あくまでふざけたような素振りを見せ、
「さぁて。どうなってるんだろうねぇ。おじさんもビックリだわ~。逆に教えてくれよ青年」
その言葉に青年は眉をピクリと動かし、ひきつった笑いを浮かべる。
「野郎…ッ。その余裕無くさせてやるよ!」
青年は刀を地面に突き刺し、全身に力を込め魔力を練り上げると、途端に辺りの空気が揺らぎ、震える。
――バチッ…
目の眼光が鋭くなった瞬間、
バチバチッ!――ヂヂヂヂッ!
一筋の光が走ったと思う間に、鳴き喚く雷電が全身を蛇の如く這いずり回り、一面暗い森に一点の眩い光が灯りとなる。
「いくぞオラァッ!」
その瞬間――
中年の眼に、目の前でいきなり顔目掛けて水平に刀を振る青年が映った。
驚く間もなく、反射的に体をのけ反らせそのまま地面に手をつき、後方に宙返りをし距離を取る。
「おいおい…。身体強化も度が過ぎるでしょ。速すぎるねぇ」
電気信号を作り出すことにより無理矢理速度を上げたにしても、青年のそれは常軌を逸脱するほどの振れ幅であった。だがその現象を恐れるでなく楽しむような心境を口に溢す。
そう言う間にも青年の雷を靡(なび)かせた高速の突きが迫り、体をずらして紙一重でかわすも、時間差で迫る刀が肩を掠める。
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