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「もーいいかい?」
「まーだーだよ」
今日も朝から子どもたちの元気いっぱいな声が公園の方から聞こえてくる。
あぁそうか……もう夏休みなのか。
この蒸し暑さ、炎天下なのに遊ぶのはやはり子どもの性なのか。
こっちはのんきにそんな休みじゃない。
本来なら休暇をもらえたところが、どうしてもという上司が頼み込むので今日は仕事だ。
今頃海で海水浴だったのに。
綺麗な姉ちゃんナンパしてのちに良いことして……。
それどころか黒いスーツの下の白いシャツが汗まみれだ。
おまけに肌からも。
どんどん俺の身体の水分が奪われていく。
初夏だというのにこの暑さじゃ満足に飯を食う気力さえない。
「もーいいかい?」
さっきよりも力強く声上げ、今か今かと待ち構える一人の少年が木の下にいた。
その木は他の木よりも際立って大きい。
そのせいなのかそこにいる少年を陰が纏っているから暑さを感じさせられない。
大木にもたれ掛かり、手で目を隠す少年はじゃんけんで負けた鬼なんだな。
「「まーだーだよ」」
鬼の掛け声に負けじと複数の子どもの声が重なって大返事をする。
気が付けばもう今年で二十九回目の夏を過ごすこととなる。
会社の同僚や後輩からはもうすぐ三十路だと馬鹿にされてしまうほどに老けてしまった。
しかし他人にどう言われようがまだまだ俺は現役の二十代だ。
そういや、かくれんぼなんてもういつからしてないんだろうか。
公園を横目にし、会社に向かって歩いてる途中にそんな淡い思い出を考え込んだ。
確か少なくとも中学生はしてないな。
さすがに思春期の真っ只中にするやつはいなかったはず。
それどころか小学生の時もした記憶がねーや。
いつも外で鬼ごっこか友達の家でテレビゲームしかしてなかったからなあ。
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