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物心がついた時には既に、僕の世界にイタミというものは存在しなかった。
生まれた時点で、いや、僕が形作られた時点で、僕には痛覚がなかったのだ。
指を捻挫しても、唇を切っても、頭を打っても、爪が剥がれても。
イタミなんて感じない。
全身の骨を砕いても、心臓を引きずり出しても、ナイフで滅多刺しにしても、四肢を切断しても。
僕はきっとイタミを感じない。
けれども、触覚はちゃんと機能している。
何かに触れれば気持ち良いと感じる。
何かに触れれば気持ち悪いと感じる。
何かに触れれば、ちゃんとその実感を得ることはできた。
それが、いけなかったのかもしれない。
小学校に上がる前、幼稚園で僕は何の気なしに自分の左の目玉を触ってみた。
ぐにぐにゴムみたいな感触で、とても気持ちよくて、とても面白かった。
それからは夢中で遊んだ。
ぐにぐに、ぐにぐに。
ぐにぐに、ぐにぐに。
ぐにぐに、ぐにぐにぐにぐに、ぐにぐにぐにぐに。
ぐにぐに、ぐにぐに、ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに、ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに。
気が付くと、床に血が流れ落ちていて、僕の両手の中からまん丸い目玉がこちらを見ていた。
僕は自分の目玉をえぐり出したのだ。
周りの子の悲鳴と、駆けつけた先生たちの何かを吐き出してしまいそうな顔は、今でも覚えている。
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