月桂樹は流星の下に ―星の芽吹き― 第一章

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俺も一度会ったことがある、保護された二日後、俺は全くの私用でトゥルエの豪炎寺家を訪ねていた。 その時に裏庭で佇むシロウを見た、どこか遠くを見据える瞳は虚ろで、濁っていた。 白く栄養失調の頬には切られたような傷のあとが、そこだけ赤く目立ち、アツヤを見る限り本当はさらさらでつやのいい髪は生気を無くし、痩せて骨ばり逆剥けだらけの酷い指が腰掛けたベンチのボルトを叩いていた。 虚無、彼にはこんな言葉が似合う。 実にからっぽだった、肉体はそこにあるが中身はがらんどうで、何もない。 シュウヤに聞けば、彼は行方を絶ってからというものの、市場で売られ人の悪い酒場の主人に買われさんざんこき使われたのだと言う、なんどもひっぱたかれ、けっとばされ、しまいには縛り付けられて真冬の川へ放り込まれた事もあったという。 酷い話もあるものだ―――――俺の第一感想はこれに尽きた、シロウは端整な顔立ちをしているのに痩せて血色の悪い肌と栄養失調のせいで出来た吹き出物のおかげで台無しだ、教育も受けておらず、計算すらも上手く出来ない。 酷い話も、あるものだ……。 「じゃあ、行ってくるわ。」 護衛はどうするかと聞いたが構わないと言ってさっさと行ってしまった、何ともアグレッシブな王女様だ、もう少し気をつけて欲しいのだが。 姉さんはトルメンタ、つまり吹雪家になにやら関係があるらしく(昔お世話になったらしい)、意気揚々と出掛けてしまった。
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