当然だけど、力が出ない。

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九時五十分。 スーパー大宮前。 ……ただ事じゃなかった。 タイムセールのスタンバイをしてるおば様方が……居ない。 いや、居るけど、明らかに様子がおかしい。 「何がタイムセールよ。そうまでして節約するの、疲れたわよ」 「たまには贅沢にスイーツだって食べたいんだから」 「体型だって気にしないんだから」 本来ならこの時間、闘志全開のおば様方が……ブツブツボソボソ呟きながら、踞って何かを食べていた。 焦げた匂いのする、黒い…… 「って、まさか……!」 「──お嬢さん」 その時、突然後ろから声を掛けられ、私は驚いて振り返った。 私の直ぐ後ろに居たのは、勿論みの○んたではなく、ローブのフードを深く被った小柄な女性。 さっきの声からしてお婆さんだろうが、俯き気味で顔は見えない。 その人が腕に掛けていた籐の籠から、 「アップルパイ、お一ついかがな?」 と、きつね色に焼けた美味しそうなアップルパイを差し出した。
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