二章 2008年 夏

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鋼は、無表情で淡々と書き上げた人型の紙を仏像に重ねる。 それを更にロープで手際良くグルグルと縛り付けているが、これも気味が悪く神社で誰しもが目にしたことがある注連縄の縮小版のような紙飾りの付いたロープを使用している。 車内の空気は勿論異様だった。 鋼は縛ってある人型の頭に相当する部分を指でクシャクシャに潰し、目を閉じ体勢を整えた。 その瞬間から急に空気が質量を持ったように重くなり胸騒ぎに似た違和感を覚えた。 当の鋼は顎を少し引き、目は閉じたまま掌を上にして重ね両手の親指だけ合わせて三角形を作っている。 端から見れば祈っているようにしか見えない、それもキリスト教などではなく坐禅など仏教的要素を含んだものを連想させる。 少し怖くなったため、運転席に座る冷静であり常識人である方の友人に怖くなった旨を伝えた。 するとバックミラー越しにこちらを見て 「俺はこの先何が起こっても安全運転を心掛けるから安心しろ、かもしれない運転至上主義者だ。」 と論点のズレた返事をした。 俺の言葉の真意が分かっていない訳ではないだろうから涼也流の気遣いなのだと解釈した。実際に涼也の余裕さに触れて不安や恐れが霧散した。
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