二章 2008年 夏

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高速を走っていると大破した車が視界に入った。 段々と車の姿が大きくなり、やがて景色と共に緩やかに後ろへ流れていく。 紛れもなくさっきの車だ、確かに他の車を巻き込まずに一台のみで事故を「完結」させている。 驚きと恐れが形を成し胸全体を渦巻き圧迫するような錯覚に囚われる。 夏休みを利用して、これから大学の友人と温泉旅行だというのに暗澹たる気分になった。 全ての元凶である大学の友人は助手席でテキーラを呷りながらどや顔で運転マナーについて語っている。 どんな環境で生きてきたら鋼の様に傍若無人に振る舞えるのだろう。 どうせ聞いても名前通りだから仕方ない等と軽口を叩くのだろう。 実際に、聞いてみた。 「鋼、どうしてそんな常に傍若無人の如く振る舞えるんだ?」 「あぁ、俺がいつも泰然自若としてるのは自信があるからさ。鋼は大抵の衝撃には耐えられるし動じない。」 ここまで予想通りだとこの軽口も清々しいものだ、鋼のナルシシズムは賞賛に値する。 運転席の涼也が 「軟派な人間に鋼って名前は冗談としか思えない」 と皮肉る。
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