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孤独感に苛まれ続けた、あの出口のない闇の中から俺を見つけ出してくれた。
血の繋がりもましてや何の縁もないガキだった俺を養ってくれた。
嬉しかった。
自分が初めて認められた気がして、とても嬉しくて、感謝してもしきれなかったのだ。
二人の寝室はもう目の前に迫る。
必死に動かしていた足を、これでもかとさらにがむしゃらに動かす。
――――そう、二人は俺の光。
失いたくない。まだ、何も返していない。
だから、俺は――――
刺し違えてでもあの化け物を殺す。
そう、決心して俺は二人の寝室の扉に手をかけた。
「じじい! ばあちゃ……っ」
勢いよく扉を開け、叫ぶ。
だが、室内の光景を見て俺は言葉を失った。
畳の上に敷かれている二つの布団。そこに二人はちゃんと横たわっていた。
身体の節々から血を流し、今にも死にそうな顔色で。
頭が真っ白になる。
全身から力が抜け、眼球が大きく開かれた瞼の中で痙攣する。
あれほど強く握っていた包丁が手のひらからこぼれ落ち、床に刺ささるのとほぼ同時に膝から崩れ落ちる。
そんな。うそだ。ウソだと誰か言ってくれ。これは夢だと。本当の俺は今もまだあの昼寝の続きで眠っていて、これはその眠りの中での夢なのだと。
けれど、そんな答えは当然返ってこない。
また、これが夢だと証明してくれるものも何もない。
――べチャリ。
またあの音が聞こえる。
その音に絶望と虚しさに満たされていた心に憎しみが溢れだす。
それはまるで炎のように俺の心臓を焦がし、身体を駆り立てる。
ふざけるな。
お前がいなければ。
音のする天井を睨み付ける。そこにはやはり奴がいた。
奴は天井に張り付きながら、その赤い眼(まなこ)を俺に向けている。
ふざけるな。
勝ち誇ったように見下しやがって。
正直なところ、奴が何故この家に来て、何故こんなことをしているのか。そもそも、奴は一体何なのか。分からないことばかりではある。
けれど、そんなことは今は関係ない。
憎くて憎くてたまらない。奴は俺から奪ったんだ。光を。俺の唯一無二の家族を。
だから、俺はお前を許さない。お前は此処で死ぬべきだ。
例外はない。お前が散らせた命、自らの命で償え。
手伝ってやる。俺がお前を――――
「殺す」
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