一度目の終幕

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妖怪――――八雲紫は暇を持て余していた。人間の常識とは違い、彼女は文字通り人を逸脱した存在――――人外である。     もちろん、その寿命は人間と比べれば月とすっぽん。蟻と象ほどの差がある訳であるが、長寿というものは得てして退屈と付き合うようなものである。     「......暇潰しにこちらに来てみたのはいいけれど......やっぱりこっちはあっちと違って面白みがないわね」     彼女は退屈そうにため息をつくと、無限に広がる夜空を当たり前のように滑空する。この闇夜では到底意味を成さないであろう日傘を優雅にさしたまま帳の中を宛もなくさまよう。 「……退屈だわ。退屈で死んでしまいそう」 そう言う彼女の顔は軽口を叩いた割には沈んだ面持ちであった。 そんな表情を浮かべるのは、今の言葉があながち間違いでもないからである。 彼女のような長命な存在にとっては正に退屈は死を招く原因なのだ。 長寿。聞こえはいいが、実際は退屈との戦いである。 長く生きれば生きるほど、精神は様々な事に対応し、肥えていく。 そうなってしまった感覚は、ごく一般の娯楽や快楽では満たされない。 ましてや、彼女は人外。元来、人から逸脱した彼女が並大抵の事で満足する訳がない。それに長く生きた経験も合わせれば、いったい何が彼女を満足させる事が出来るのだろうか? 故に退屈。退屈なら生きている意味もない。そんな結論に簡単に至ってしまう可能性が大いにあるからこそ、彼女は言葉の調子に反して沈んだ表情を浮かべていたのである。 (何をいまさら……) 彼女は心の中でそう呟くと、自嘲の笑みを浮かべる。 考えても仕方がないのである。それは今までに何度も考え、感じてきた事なのだから。 彼女自身も気分を切り替えようと、その場に停止し、背伸びをした。
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