一度目の終幕

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「…………妖怪のお嬢さんがわしに何のようじゃ?」 「あら? 私がどんな存在か分かるの?」 そんな老人の言葉に紫は初めて驚いたような顔をしてみせる。 「昔、お前さんの同族を相手に仕事しとったからな。特有の匂いがプンプンするわい」     老人はそんな紫の言葉に事もなげにそう返した。       「そうじゃ! ばあさんは......」     「心配ないわ。命に別条はないし、今は眠ってる」     紫はそうとだけ言うと、老人に目を向けることなく歩を進める。その先には一人の少年の変わり果てた姿。       「......なんじゃ、これは」       その姿に老人は言葉を失った。その変わり果てた姿を見て、信じられないとでも言うように少年の死体から目を離すことなく身体を硬直させていた。   そんな老人を尻目に紫はその死体の側に立ち、何かを見定めるように死体の端から端までを丁寧に観察し始める。       「何......これは」       そして、紫はそう一言呟き端正な顔を苦々しく歪めた。その顔には疑念と悔しさ。その二つがありありと示されている。紫が感じた殺気とおぞましい空気。それの出所が特定できたのである。   その出所はこの死体であった。   殺気はもちろん一瞬の出来事であったため、今はそれじたいは残ってはいない。しかし、殺気には残滓が残る。 料理をした後の残り香のように、その痕跡は感じ取るものがその感覚を鋭敏に感じ取れる事が可能ならば、強くその気配が残っているものなのである。   紫はまさに今その殺気の残滓を感じ取っていた。それだけならば、良かったのであるが、今回は少し勝手が違ったのだ。   彼女が死体から感じ取ったのはそれだけではなかったのである。   この場に来るきっかけとなった、形容し難いおぞましい空気。それが少年の死体を起点としていたことに紫は焦りにも似た感覚を感じていた。    
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