一度目の終幕

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殺気と同様この空気の残滓が感じ取れていたのなら問題はなかった。しかし、この不可思議な空気は今現在もこの空間を取り巻き続けている。   その起点が既に死亡しているのにである。   眼前のその光景を見て、紫は思案顔で目をつむり、数秒うつむいた後、男性の方に顔を向ける。       「......息子は......」 そう、絶望を張り付けたような顔で声にもならない声を上げる老人。それを見て紫は努めて冷静に言い放つ。 「死んでるわ。完全にね」 ――――ただ、と紫は続ける。 「心臓に何か得体の知れないモノが寄生している。これが今良くない気を発しているわ。見てごらんなさい」 紫の言葉に老人は息子の死体に近寄り、紫が指差した左の胸部を覗き込んだ。 「これは……!」 そこで老人が見たのはぽっかりと空いた風穴が小さく胎動している光景だった。 「この死体に着いたモノはおそらく自分自身を自分が貫いたこの子の心臓の代わりにしているの。そこから、彼の身体の破損した部位を修復するように力を使っている。このおぞましい空気はその力の余波と言った所かしら」 「だったら、息子はこのまま行けば助かるのでは……」 老人の言葉に首を横に振る紫。それと同時に何処からともなく扇子を取りだし、少年の死体を指す。 「言ったでしょう。彼は完全に死んでいる。身体が戻っても、一度止まった命は戻らないわ。それにこのナニカはもっと厄介なモノよ」
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