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「人の死を多く見てきた者特有の『色のない』目をしておった。大人がすくんで動けなくなるぐらいの冷たい目を。想像できるか? たった六つか五つの子供がそんな目をしなければならなかった状況が!!」
老人の叫びにも似た告白に紫は息を飲んだ。紫は何度も言うが、妖怪である。
人間とは考え方も違うし、常識も違う。生きるためには他の生物を殺すことも、それが自分達と似ている人間であろうと迷うことはなかった。
けれど、その状況が殺す事に多少は慣れている彼女ですら想像出来なかったのだ。それはどんな地獄だったのか、どんな闇だったのか。齢(よわい)三百年以上の彼女ですら戦慄を覚えるものであった。
「同情? それの何が悪い! 人間が他人を幸せにしたいと思って何が悪い! だから、わしは決めたんじゃ。あの子を絶対に幸せにすると……なのに」
老人は泣き崩れた。それが何の意味も持たないと知りながら、それでも泣かずにはいられないと。
「……頼む、お嬢さん。お主は他の妖怪とは違い、特殊な力があるのだろう? それも強大な……例え方法がないにしてもわしはお主にすがるしか方法がないのじゃ。わしはお主の同族を殺してきた敵かもしれん。しかし、それでも……」
老人はそう言って、紫の前で膝を着いた。紫とてその意味が分からない訳ではない。何かを察したのか、少し嬉しそうに微笑んで口を開いた。
――――方法なら一つあるわよ。と。
その言葉に老人は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。そこには驚きと希望の色。
紫はそんな彼を見て、兼ねてからの考えを話し出した。
「この子に巣くっているナニカは順調にこの子の身体を修復させている。そして、最後には心臓も修復されるでしょう。その修復が完了した瞬間に、この子とナニカを切り離すの。そうすれば、彼は身体は元通り、意識も以前の彼と同じままよ」
――――ただし、条件がある。と、紫は付け足す。
「彼はこの世界とは別の世界に連れていく。こんな事になった以上、またこの子が何時同じ目に会うか分からない。それに、彼と寄生しているモノを切り離すと言ってもそれが百パーセント成功する保証もない。確率で言えば五分と五分だし、仮に成功しても何らかの後遺症が残る可能性がある。それがなんであれこの雰囲気からしてこちらの世界では到底対応しきれないものになるでしょうしね」
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