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世界は理不尽である。 言わずもがな、この俺、神部黒央(かんべくおう)の自論である。 それを他人に押し付ける気もないし、心に留めておいたところで何かがいい方向に傾く訳でもない。 そう理解しているのに、ここでこの言葉を取り上げさせてもらったのにはそれなりの理由がある。 まず、俺はあの時死んでしまったはずだ。 家に現れた正体不明の黒い塊と、戦いと呼べるのかも分からない取っ組み合いを繰り広げ、心臓を一突きにされた。 それで神部黒央の生涯は幕を閉じたはずなのだ。 にも関わらず…… 「何で生きてんだよ、俺」 俺の心臓は穏やかに動き続けていた。何事もなかったかのように、至って平静に鼓動していた。 「ふぅ……」 その事実に俺はたまらず安堵の息を吐く。 原因なんて分からない、考えうる可能性の中には後で落胆しそうなものもある。 けれど、そんなことを度外視して単に自分に命があったことに喜んだ。 「……そっか、俺……生きてたんだ」 ――――よかった、と仰向けになりながら呟く。   俺の呟きは誰に聞こえるでもなく、この一面に広がる青空に消えていった。     ――――そう……青空にである。 俺の目の前に広がるのは曇りのない快晴の空。   しかし、俺はつい先ほどまでは屋内にいたはずなのだ。それも勝手知った自分の家の中である。   だったら、この状況はどう考えたっておかしいの一言に尽きる。   家の中で意識を失い(正確には死に)、目を覚ませば屋外にいるなど何処のB級映画だと嘆きたくなる。 しかし、まぁ事実は事実だ。戸惑いはあるが、受け入れる他ないだろう。 そして、その事実を受け入れた上で言わせてもらおう。 「…………何処だ、ここは?」 世界は本当に理不尽である。
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