始まり

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俺の家は郊外にある祖父の所持する武家屋敷である。   時代錯誤な建築様式とだだっ広い敷地を有しているために近隣では何かと有名な屋敷となっている。   まあ、祖父の家に住んでいるとなればそれなりの家庭の事情というものがあるのだが、実のところ俺は正直そこら辺の事をよく覚えていない。   概要だけを軽く説明すると、俺は孤児院の出身であり、だいたい五歳ごろから施設にいたということらしい。 小さい時の事なので、孤児院に入る前の事や両親の顔なども全くといっていいほど記憶にない。   そして、六歳と半年が過ぎたころに今現在の祖父と祖母に引き取られる訳である。   だから、戸籍上は祖父は父親という立場になるわけだが、さすがに六十前半のファンキーじじいを父親というには無理があるので、祖父という関係に落ち着いている。   実際、じじいも孫のような存在が欲しかったらしく、俺を引き取った時からえらく自分の事を"じいちゃん"と言うようになったとのこと。   一方、祖母は破天荒な祖父とは対照的にものすごく落ち着いた性格。おおよそ、祖父と同い年ぐらいであるがしわも少なく、目力も強いため、昔は相当な美人だったのだろうと勝手に予測している。   なんでこの二人が結ばれることになったのか甚だ疑問に思うくらい対照的な老年夫婦である。     とまぁ、俺の家族背景はこんな感じである。   自転車は快調にスピードを上げ、郊外の木々を横目に踏み慣らされたあぜ道を進んでいく。   特に問題なく、数分後には家に到着。   自転車を門の裏側に立て、前かごに入れていたカバンを手に取り、玄関へと歩を進める。 「ただいま」     「さぁ、稽古じゃ」     玄関の戸を開け、お決まりの挨拶をすると、有無を言わせない迫力のある声がそんな唐突なことを言い出した。       「............会話のキャッチボールって言葉知ってるか? じじい」    「じいちゃんは昔から横文字を一切受け付けん脳味噌じゃからなぁ」     そう、この白髪にこれまた白い顎鬚を蓄えた仙人みたいな容姿の老人が俺の祖父である。   念のためではあるが、このじじい、痴呆症の類は欠片も見つかっていない健康そのものである。       「......せめて少し休んでからでいいだろ。昨日も夜遅くまで英語の予習で起きてたんだからさ」     「えぇ~......」 「『えぇ~』じゃない。ガキかお前は」
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