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何年ぶりかの昼寝から目覚めると既に外はどっぷりと日が暮れていた。学ランのままで眠っていたせいか妙に息苦しい。
「......ちっ、マジかよ」
身体をお越し、部屋の勝手口の上に備え付けられた時計を見て思わずそう毒づいた。
時計の針はどちらも垂直に真上に伸びており、自分が知らぬ間に日を跨いでいた事を知らしめる。
何故こんなにも寝てしまったのかなんて原因が分かるはずもなく、ただ時間を無駄遣いしてしまったというちょっとした罪悪感に襲われる。
「宿題やってねぇし、飯も食ってねぇ。おまけにじじいの稽古サボったなんて......後で何を言われるやら」
ぼやくも過ぎてしまった事はしょうがない。取り敢えず何か飲み物でもと呟く。
「......ん?」
そうして部屋を出ようとしたその時、何か言い様のない違和感が俺を襲う。
何故かは分からないが、この部屋を出たら最後、無事にここに舞い戻ってくる事ができないような――――
「......アホらし」
何とも馬鹿な話だ。いくら非日常が欲しいからって、根拠もない感覚を自分ででっち上げるなんて......
背中越しに引き戸を閉める。その音が嫌に耳に残り、訳もなく苛立った。
いや、苛立ちの原因は分かってる。俺は非日常を求めてる。ただ、この世界での常識の中で生きてきた俺が自身のそんな思いを認めたくないだけだ。
ありもしないものを求め続けるなんて、言葉に出せば聞こえはいいが、常識的に考えればただのイタイ奴だろう。
非日常を求める自分と、日常を求める自分。
その二つが俺の中でぶつかり合って、すっきりしないだけだ。
厄介なのはここまで自分で整理が出来ていても、この苛立ちが消えないって事。
「っとに......人間って不便だよな」
独白はむなしく響き、俺は板張りの廊下を歩いていく。
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