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(亘視点)
「おはよ、亘」
大部屋の楽屋に入って、一番はじめに見付けたのは、金田の笑顔だった。
「おはよーございます」
キャップを脱いで、その場に居る全員に挨拶をしたけど、俺の眼には金田の姿しか映されていない。
「あれ、村健は?」
「今日は午前中オフだったから、アイツとは会ってないんだ」
金田の正面の椅子を引いて、そこに腰掛ける。
机の上に荷物を置いて、そう答えると「あ、そうなの?」と俺の顔を見た。
「うん。なに、アイツまだ来てないの?」
「みたい。ま、いつもの事だけどさ」
可笑しそうに笑う金田。
ただ、それだけの事なのに、俺の胸がキツく締め付けられたように、痛んだ。
ひどく、息苦しい。
「亘、どした?」
「!っ…いや、なんでもない」
あの後も、ずっと喋り続けていたらしい金田は、黙って俯いたまま何も言わない俺を変に思ったのか、下から覗き込んでそう問うた。
余りの近さにびっくりして、どもった自分が情けない。
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