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摘まんでいた紙を原田の持った籠に入れた。
「最初から手伝えなくて悪かった」
二度と原田には謝罪をしないとつい今しがた思ったばかりだなと、少し可笑しくなる。
原田は歯を見せて笑った。
「斎藤は近藤さんか土方さんの指示でどこか仕事していたんだろ。
斎藤だって松が帰って嬉しいのに、お疲れさま」
どちらの指示でもないのだが、都合が良いので頷いておこう。
「松が総司達と帰って来たら、一緒に驚かそうぜ」
仲間が喜ぶ為なら努力を惜しまない姿。
原田も永倉も昨夜は遅くまで仕事をしていたのに、原田のこういうところには敬意を持つ。
とは思いつつ、心の中で呼び捨てしているのは秘密だ。
「もう夕日も沈むし、そろそろ…」
夕日を見た原田が、ふいに鼻と口をモゾモゾさせる。
「戻って…はっはっはっくしょーい!」
そして、遠慮もなしに大きなくしゃみをした。
「あー!原田隊長ー!」
「お…おおう…」
せっかく集めたのにと怒号が原田に向かう。
バラバラと俺に二度も吹きかかる紙吹雪。
今度は原田の唾も一緒だから、顔に貼り付いたぞ。
原田よ、せっかく見直していたのに。
「あれ?
原田隊長の声がしませんでした?」
背後の門の方向から松田の声が聞こえた。
松田よ、素晴らしい最悪のタイミングだ。
「ヒマリ君、貴女が先に入りなさい」
沖田よ、せめてお前が先に入って欲しかった。
さすればまだ好機はあったのに。
取り返しのつかない事態に、原田の隊の者達は氷のように固まる原田と紙吹雪と化した俺を残し、風の如く所内へと消えていた。
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