いつも恐怖は無知から発生する

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「私も行きます。 陸奥さんは私を励ましてくれようと…してくれて」 永倉さんの背後に現れた私の姿を目に捉えると、ヒマリ君の声が一度止まる。 しかし、気丈な姿は変えずに追いかけようとします。 意地っ張りの頑固者。 泣けばいいのに…。 モヤモヤしたものが腹を蠢きますが、顔に出すまいと、私はなに食わぬ顔でいてやります。 「それだと二人で如何わしことをしていたんじゃないかって、逆に男である陸奥が責められる。 それに俺も嘘をついたと懲罰を食らうだろうし」 「陸奥さんはっ」 「そんなことはしないって、俺達が分かっていても、もう既に確立されてしまっている皆の陸奥への印象は変わらない。 自分の意思だけを尊重し自由にするってものは、それなりのリスクがあるものだ。 陸奥もそれを分かっていての行動だ、庇う必要は無い。 ヒナ、お前なら分かるな?」 珍しく厳しいことを言っているのは、永倉さんも腹を立てて立てていたから。 それよりも心配をしていたから、ですね。 永倉さんの静かな説得に、ヒマリ君は唇を噛む。 これが一番の無難。 掠れる声で小さく返事をしたヒマリ君に永倉さんは、緊張していた目の周りの筋肉を弱めました。 永倉さんは甘いですね。 そう言う私も甘いのは。口を開いたら…彼女を責めてしまいますから。 「…泣き虫だな」 ヒマリ君の肩に置かれた手が、彼女の頭に触れる。 そしてそのまま自分の胸元へと頭を抱き寄せた。 間抜けなヒマリ君はされるがままで、永倉さんの胸元の制服をきゅっと掴みました。 「黙って抜け出して…すみませんでした」 「ん…、悔しいけどヒナが一人で泣いてなくて良かった」 …他の学生の往来がある廊下で、仮にも兄妹の設定なんですよ。 それ以前に私の目の前で密着しないで下さい。 「ほら、宗次郎も」 「気分が優れません」 一緒に抱き合おうと誘おうとした言葉を遮る。 低すぎた声に、ヒマリ君の肩が微かに跳ねたのを見逃しません。 ヒマリ君の目をまともに見れない。 「次の講義、休むので伝えておいて下さい」 いつも見ていた目を、見られない。 .
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