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▽▽▽
キョウの北山。
貴族の邸宅が狭苦しい街中と違って悠々と点在する。
僕たちはそこにある協力者の貴族の別荘を借りて、親族として偽り隠れ住んでいた。
庭には池もあり、珍しい色をした金魚が暑さも忘れさせるくらい優雅に泳いでいる。
「はちじゅ~いち、はちじゅ~にっ」
その池の側では、いるだけで暑い晋作が腕立て伏せをしていた。
「ねえ、お酒買って来てよ」
「はちじゅ~さん、てめえで行けよ。
俺は忙しいんだよ」
昨晩の戦いで、晋作は原田左之助が仲間を庇いながら自分と戦われたことが悔しかったみたい。
原田も傷を負いながら苦戦していたらしいんだけど、晋作としては『そんな余裕があんのか』って、力の差よりも器の差を見せつけられたようで。
自分も鬼兵隊の隊長だから、仲間がやられていくのを助けられなかったりした分、新撰組への恨みが増したんだ。
晋作は古高を救えなかったことも酷く後悔している。
もっと早くに動いていれば。
もっと自分に力があれば。
だから馬鹿みたいに鍛練している。
「あ…じゃなくて、馬鹿だった」
「はちじゅう…おい!
さっきから聞こえてんだよ!
つぅか、数が分からなくなったろ!」
「じゃあ丁度良いじゃない。
お使いしてきて」
汗だらけの顔をひきつらせたまま、晋作は立ち上がった。
「暇しているおめえが行けばいいだろ」
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