きっと素敵なことが始まったんだって

80/85
2959人が本棚に入れています
本棚に追加
/3000ページ
本来嫁入り前の姫君は人の前に堂々と姿を見せない。 柴縁は松田よりも一回り年齢が上だったが、声色を駆使して影武者として活躍していたようだ。 流石、御庭番の家系だ。 松田を直ぐに城へ戻すのかと覚悟をしていたが、しばらくこのまま様子を見ると松平公は判断された。 臨時召集以来、政情が安定していないと静かに漏らした。 三条を崇める者、支持する者、おこぼれを貰おうとする者が現れ始め、徳川王の権威が薄弱し始めたのだ。 公武合体を狙う者達も黙っているはずがない。 そして三条は国民の支持もすんなりと受け入れられるように国王の姪である松田も狙っている。 アイヅ藩と守護職として警備も二分されている現状で、姫君を守るとなると難しい。 『新撰組の中にいる方が都合が良いのだ。娘にとっても、私にとっても。祖先が築いた国を守るのが兄と私の使命故にな』 その前を見据える眼光には僅な陰りがあった。 国を守ることで、娘も守れると信じている。 しかし手元で愛娘を守れない、苦渋の判断であったことは違いない。 「斎藤、大丈夫か?」 俺の手元が止まっていたからだろう、原田がばつが悪そうに覗いてきた。 心配するな、気を悪くしてはいない。 松田の為にやったことなのだから、むしろ誉めても良い…とは上から目線なので黙っておこう。 .
/3000ページ

最初のコメントを投稿しよう!