第2部 不自由を常と思えば不足なし

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「ま、待て。 それは冗談だろ」 「絶対に…降りないんだろ?」 「おり、降りる!」 「男に二言はありません。 志村君、発砲の許可をします」 本気で擲弾筒を放つようなので、慌てて木から離れる。 国外ではグレネードランチャーと呼ばれるそれは、小銃よりもはるかな破壊力を持つ。 「マルヒを殺さないで下さい!」 「任せろ松田!」 宝石のように輝く志村さんの瞳が、照準を合わせる。 指に引き金がかかったのを確認し、耳を塞いだ。 爆音と煙、そして衝撃。 犯人の足を掛けている枝が吹き飛んだ。 「ぎゃああああ!」 落下した男の身体を、布を広げて久米部さんと山野さんが弾ませる。 もう一度宙に投げ出された男は、次は落ち葉の上へと落ちた。 「確保しました。 気を失っています」 佐々木さんが伸びた男の両手を適切に縛り懐にあった数個の財布と短刀を取り出す。 男の足袋が焦げている。 余程ショックだったのか、口には泡も付着していた。 「あれ?標準がぶれているなぁ。 真横を狙ったのに」 「真新しい取り寄せた品ですよね。 後で土方さんに文句を言っておきましょう」 恍惚とした表情の中の、少年のような純粋な疑問を持つ狙撃兵。 総司さんももう少し犯人の心配をして下さい。 身の毛もよだつ発言に、マルヒの身体に穴が空かなくて良かったと心から思う。 よいしょと、塚本さんが男を肩にのせる。 久米部さんと山野さんと私は、パチパチとまだ燃える枝を布で消火した。 山火事になったら大変だ。 報告書、今日も総司さんが書かないで久米部さんか私に任せられるんだろう。 注意か指示勧告を受けるのは必至だ。 .
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