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「帰りにお店には寄りませんからね」
総司さんならあり得る事態に、釘をさしておく。
「はいはい」
あ、今のは聞かなかったことにするつもりだ。
頬を膨らませた私に、総司さんが怪しく微笑んだ。
「帰りには寄りませんよ。
明日行きましょう、今日も頑張ったご褒美にご馳走しますよ」
「…いえ、大丈夫です」
本当ならば嬉しい言葉に、思わず表情が雲ってしまったのを見逃すはずもなく、総司さんが首を傾げて立ち止まった。
「どうしました?」
綺麗な瞳に私が写る。
それは…。
総司さんにこれ以上の負担を掛けたくないから、と言う言葉を飲み込む。
隊長への言葉として不適切かなと思ったからだ。
「着物のことを気にしているんですか?」
すんなりと的中され、思わず顔を上げてしまった。
馬鹿ですねと、目を優しく細められる。
前に女物の着物を買うことになり、総司さんと千春のお店で選んだ時のこと。
平助さんが出すことになったが申し訳なくて、落ち着いた藍色の一着だけ自分で買おうとした。
しかし、支払いの時に千春は私のお金を受け取らなかった。
沖田さんからお先に貰っています、と。
そして、一つしか選ばないだろうと思ったと、総司さんが先にもう一つ薄い橙色の着物を用意していた。
帯は面子もあるだろうし平助に出して貰いましたから、と金糸が混じった灰色のもの。
あれこれと言いくるめられ、結局私が支払うことは出来なかった。
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