第2部 不自由を常と思えば不足なし

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東山の山林から町に戻る。 神社の境内から子供達の楽しそうな声が聞こえた。 「山南さんが寺子屋を開くそうですよ」 総司さんが声の方に顔を向けてから、穏やかな声で教えてくれた。 「山南副長が…」 「副長ではなくなりましたけどね」 切ないような私の言葉にクスっと笑うので、総司さんは新撰組を抜けることに反対ではないのだろう。 刀が握れなくなって、代わりにペンを握る。 無邪気な子供達に、知ることを学ばせる。 山南副…じゃなくて、山南さんの落ち着いた感じに合っていると思う。 本来なら法度を破った罰則で切腹しなければならなかったが、父の口利きで山南さんは切腹せずに済んだ。 腹を切らせて死ぬ身なら自分が山南の命を貰っても良いだろうと、父は形ばかりだが山南さんを引き取った。 東山にある父の知人邸宅に身を寄せているとの話だから、もしかしたらバッタリ会うかも知れない。 「山南さんの寺子屋なら子供達が喜んで集うでしょう。 私も子供が出来たら預けたいですよ」 未来を見つめるように空を仰ぐ総司さんの横顔に、目を奪われる。 優しい顔。 総司さんも子供が出来たら…。 「え?」 「はい?」 子供と言いましたよね!? 総司さんに!? 「い、いらっしゃるんですか!? 伴侶となる方が!?」 いつの間に…。 おめでたいことだけど、心が落ち着かない。 総司さんが隠していた…と言うか気づけなかった自分にかな? 喉がつっかえるような、苦しさも感じる。 .
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