第2部 不自由を常と思えば不足なし

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目を通し終わった後、ヒマリへと指摘すべき点を指で差す。 「この『小銃では対象に威嚇射撃が届かない為に擲弾筒を使用』とあるが、誰の指示で誰が使用が書かれていない。 お前がこんなあからさまな間違いをするはずない。 いい加減公文書で仲間を庇うのは止めろ」 「…すみません」 「それからマルヒの装飾品の弁償代は書かなくて良い」 「あ、それ消火中に久米部さんのお尻が焦げちゃったみたいで、先程『労災やし書き足しといてやー』って…」 「なら尚更書かなくて良い。 ったく、お前は利口なのか馬鹿なのか…」 馬鹿なお前も可愛いけどな。 って、言えない! もどかしいが仕事中だ。 ぐぐっと奥歯を噛み締めていると、ヒマリが覗き込むように俺を見た。 「土方副長、他にもありますか?」 「い、いや。 後は問題ない。 ここで訂正して行け」 上目遣いは狡いだろ。 男心も、俺の心中も知らねえで。 「はい、ありがとうございます」 控えめの笑顔。 席を譲るように動いた俺の横にヒマリが机に向かう。 一度頭の中で文章を作り直したのか、数秒一点を見つめていたが、筆を取るとスラスラと書き始めた。 目を僅かに伏せているから長い睫毛が影を作る。 絹のような髪から耳の上が見える。 細やかな肌、微かな息遣い。 全部俺のものになれよ。 ちくしょう。 こっちは煩悩の塊と化しているのに、平然と俺の隣で始末書を訂正するお前は菩薩か? .
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