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目を通し終わった後、ヒマリへと指摘すべき点を指で差す。
「この『小銃では対象に威嚇射撃が届かない為に擲弾筒を使用』とあるが、誰の指示で誰が使用が書かれていない。
お前がこんなあからさまな間違いをするはずない。
いい加減公文書で仲間を庇うのは止めろ」
「…すみません」
「それからマルヒの装飾品の弁償代は書かなくて良い」
「あ、それ消火中に久米部さんのお尻が焦げちゃったみたいで、先程『労災やし書き足しといてやー』って…」
「なら尚更書かなくて良い。
ったく、お前は利口なのか馬鹿なのか…」
馬鹿なお前も可愛いけどな。
って、言えない!
もどかしいが仕事中だ。
ぐぐっと奥歯を噛み締めていると、ヒマリが覗き込むように俺を見た。
「土方副長、他にもありますか?」
「い、いや。
後は問題ない。
ここで訂正して行け」
上目遣いは狡いだろ。
男心も、俺の心中も知らねえで。
「はい、ありがとうございます」
控えめの笑顔。
席を譲るように動いた俺の横にヒマリが机に向かう。
一度頭の中で文章を作り直したのか、数秒一点を見つめていたが、筆を取るとスラスラと書き始めた。
目を僅かに伏せているから長い睫毛が影を作る。
絹のような髪から耳の上が見える。
細やかな肌、微かな息遣い。
全部俺のものになれよ。
ちくしょう。
こっちは煩悩の塊と化しているのに、平然と俺の隣で始末書を訂正するお前は菩薩か?
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