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「ヒマリ君」
総司の空いている方の手が、ヒマリの頬に触れた。
「人は…捨て駒ではないことを、貴女が一番知っているはずです」
照らしていた紅色が、細く、より濃くなる。
鳴かないカラスが羽音を立てながら、夕日とは真逆にある闇夜に向かう。
「新撰組がある限り、貴女の居場所はなくなりません。
例え、修羅の世界であろうと、仏に近い世界であろうと、私達の居場所を守るためにも……」
総司の整った横顔が 、微かに曇る。
不安。
それが過ったのは、ヒマリだけではなかった。
「共に、戦いましょう」
今からもっと、ずっと先の世に。
恐れられていた狼が。
畏怖の代名詞であった存在が。
狼が善意ある人々の手によって狩られて滅ばされた事実があるとは、知るはずがない。
「…馬鹿野郎。
勝っちゃんや、てめえらや、俺がいるってのに無くなるはずがねえだろ」
総司とヒマリを纏めるように、抱き寄せる。
信じているものが、この手の内にあることを確かめる。
狼は家族を大事にするイキモノだ。
タヌキや、人に飼われた犬なんかに駆逐されたりはしない。
だからてめえらも、てめえを信じて進めば良い。
「…土方さん、気持ち悪いです」
こいつ…。
黙ってろよ、馬鹿総司。
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