いつも恐怖は無知から発生する

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▽▽▽ 教室に、ヒマリ君の姿がありませんでした。 永倉さんに確認しても、聞いていないとのこと。 科の一人が少し恥ずかしがりながら「手洗いに行ったよ」と教えてくれたので、講義が始まる前に戻ってくるかと待っていましたが…。 「…陸奥牛麿が居ないのは時折あるが、手代木ヒナはどうした?」 教官の言葉に、数秒のざわめきが起きました。 本山さんが探してきましょうかと提案しましたが、永倉さんは何を考えたのか真っ直ぐに挙手をしました。 「すみません、報告が遅れました。 妹は体調を崩しまして、養護室で休んでいます」 「そうか、手代木ヒナには後で君から教えてやると良い。 よし講義を始める。」 永倉さんの爽やかで誠実な印象に、疑い無く信じた教官が講義を始める。 私は永倉さんをジロリと睨むと、永倉さんは涼しそうな横顔で私に小さな紙を渡しました。 『たぶん、陸奥と一緒だ。ところでヒマリと何かあった?』 そんなこと、朝から聞きたくてしょうがなさそうに永倉さんが心配していたのは感じていました。 昼の休憩時間にも、用足しをする振りをしてヒマリ君から離れた私に極めて明るく付いて来ましたから。 本人も二人きりを避けたのは告白したヒマリ君に気を遣ったのもあるでしょう。 永倉さんが寄越した紙の裏にペンを走らせる。 それを永倉さんの机に投げた。 ワクワクしながら丸めた紙を広げた後に、顔色を白くして固まりました。 私達を心配をしている以上に、「総司も告っちゃったんだろ?ほれほれ白状しろ」と面白がる裏の顔がちらほら見えているので、言うわけありません。 仕返しに『祇園の鹿乃さん、北山尼寺の叶院さん、寺町下駄屋のこまきさん(夫あり)、他諸々』と、永倉さんが手を出した女性を書いておきました。 青ざめて『なんで知ってんの!?』と唇を動かすのを、悠々と嘲笑う。 爽やか好青年の裏には、こんなにも泥々した遍歴があるんですよ…ふふふ。 .
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