いつも恐怖は無知から発生する

284/408
前へ
/3000ページ
次へ
「よーし、他の学生も井上を見習うように! 私も久々に燃えてきた…! ビシバシ行くぞ!」 熱血ですが、他の学生が迷惑するだけで私には関係ありません。 永倉さんの恨めしそうな目線を横に感じながら、私は再び窓の外を眺める。 本当なら廊下に立たされてその隙にヒマリ君を探しに…と思っていたのですが、上手くいきませんでした。 心配させて、探して、呑気にしているヒマリ君に腹を立てて、勝手に安心して…。 怒った私にヒマリ君は黙って側にいて、時々話しかけては笑って。 私の稽古にぶつくさ言いながらも付き合って、甘味を食べるのを優しい笑みで見つめてて。 寝相の悪いヒマリ君に布団をかけ直しながら、そっと触れて自分でも顔が緩むのが分かって…。 もう、それも終わりです。 終わりに、しました。 「井上、次の休みに六甲山を登りに行くか?」 講義が終わった時に、教官に意気揚々と声を掛けられる。 私はにっこり笑って「それはいいですね」と返事をする。 次の休みには、ここを去っていますから。 安心して嘘が言えます。 嘘は…得意ですから。 他の学生がスパルタ講義のせいでぐったりしている教室に、陸奥さんのヒマリ君が入って来ました。 「手代木、もう大丈夫か? 陸奥はこのまま教官室に来い」 「はいはいっと…」 戸惑いを浮かべつつ、連行されるのは陸奥さんだけで心配なのか。 彼らを見送りながら、眉を下げるヒマリ君の目の下は赤い。 あんなただの数日を過ごした陸奥さんの前で泣くんですか。 私の前では、泣かなかったのに。 素知らぬ振りをしてしてはらわた煮え繰り返る…まではいきませんが、ムッとしてしまう。 「ヒナ、具合悪くて養護室に行っていたんだろ」 廊下に出たヒマリ君に、永倉さんがそっと近寄って耳元で何かを囁く。 ヒマリ君は顔を上げた後に、「でも…」と言葉を詰まらせた。 .
/3000ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2968人が本棚に入れています
本棚に追加