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恐怖ではない、寂しさがヒマリの眉をひそめた。
「どうして」
「裏切られた気分か?」
彦斎が半ば笑いながらヒマリの後ろ手を掴んだ。
「どうして、自分を傷つけることばかりをするんです?」
悲しみが込められた切なそうな声色が、四角い殺風景な部屋に響いた。
「貴方が言ったことは嘘とは思えません。
貴方が言っていることは、自分を追い込んでいる」
そんなに真っ直ぐに相手を信じられるのはどうしてだ。
尊敬する佐久間や、友人である三浦を殺されたことに対する恨みや恐怖ってもんがあるだろ。
「姫さんは俺の何を知ってると言うんだか」
「知らないからこそ、感じたままを伝えているんです」
悪態をつくように片眉だけを上げた彦斎に、ヒマリは間髪いれずに言い放った。
原田は間合いをつめるようににじみ寄るが、当てられた凶器がさらに押し付けられる。
綺麗な白い肌に、一滴から一筋に流れるように赤い血が這う。
わずかにヒマリの顔が苦痛に歪んだのを見れば、沸々と沸き上がる怒り。
この野郎、俺の部下に何しやがる。
「そんなこと言って、あんたも皆と同じように俺を憎んでるんだろ?
綺麗事はヘドが出るぜ」
嘲笑うような彦斎に、ヒマリは目を閉じた。
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